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Ryo爺の独り言

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渡辺淳一氏を騙す  
名前:Ryoji    日付:2015/6/11(木) 9:25
22年も前の話だが……。私は札幌パークホテルで開かれた渡辺淳一氏の還暦パーティに招かれた。というより、本当は氏にではなく、当時の『文学界』の編集長・T氏に呼ばれたというほうが正しいのかもしれない。私は小説『闇の力』で、その年の北海道新聞文学賞を受賞したので、編集長として出札のついでに、この無名の新人に会っておきたいと考えたのだろう。

田舎でわけもわからず書いていた私には、そんな晴れがましい場に出たことはなく、緊張と興奮にとらわれていた。会場には大勢の渡辺フアンが詰めかけ、それも着飾った中年女性が圧倒的に多く、脂粉の香りで卒倒しそうだった。

渡辺氏がやってきて、私と対面した。氏は道新文学賞の選考委員をしていて、新聞に載った評のなかで一番ほめてくれた人だった(作品を文藝春秋に持ち込んでくれたのも氏だった)。
開口一番「あの木崎が死ぬシーンは、本当にあった話だろう」と言った。私は即座に「いいえ、あれは作り話です」と事実を言うと、驚いて「そうなのか、……まさに野に遺賢ありだなあ」と身に余る最大級の賛辞を賜ることになった。

それは『闇の力』第1章のラストで、夜間高校に通う親友が猛吹雪で道を誤り、川にはまって死ぬ場面なのだが、選考のため読んだ渡辺氏の印象に残るシーンだったらしく、それがプロ作家をして本当の出来事と思わせる迫真の描写だったということか、と私は一気に舞い上がった。

ついで、同席していた道内の先輩作家(名前は知っていたが、名刺交換で初めて顔を知った)や中央の出版社の編集者からも声をかけられ、これからは、次作をどんどん書かないとだめだよ、とハッパをかけられた。

T編集長には別席でいろいろ激励され、慫慂されたのだが、その数カ月後、舞い上がった私が次に書いたのは性を笑いとばそうと試みた「五味氏の宝物」だった。先の「闇の力」が超真面目な純文学、次がふざけまくったエンターテインメントと、一貫性のない私は、絶好のチャンスを活かすことができず、その後、文壇とやらに登ることはできなかった。

北海道文学館でいま開館20周年特別展“没後1年 渡辺淳一の世界”が開かれている(2015年4月18日〜6月21日)。期間は残り少なくなった。北のロマンを描き続けたベストセラー作家の原点に触れてみてほしい。私としては、新人にやさしい氏の視線と声音を偲ぶ思いだ。


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