【質問】 終戦後,ドイツ兵捕虜100万人が,虐待等により死亡したという証拠は存在するのでしょうか? http://keshiintokorozawa.web.fc2.com/faq08a03b.html#lost-paw 【質問】 上記に関する,現存する資料には,どんなものがあるのでしょうか? http://keshiintokorozawa.web.fc2.com/faq08a03b.html#lost-paw-evidence
どちらの項目でもいいですが追記します。
この項目の回答の参考文献の中に「大戦後に百万人のドイツ軍捕虜が西側連合軍によって虐待等で死亡した」という内容のジェームズ・バクーの「消えた百万人」という本が登場します。しかし、大木毅氏によるとバクーの「消えた百万人」は間違えだらけの本で、バクーの主張は欧米ではとっくに専門研究者から論破されているそうです。 やや長くなりますが引用します。
このようなソ連の捕虜に対する扱いを考えると、西側連合軍のドイツ捕虜に対する処遇は比較的人道的だと思われてきた。ところが、近年、こうした理解に異議を唱える著作が登場した。カナダ人ジャーナリストのジェームズ・バクーの書物『その他の減員』である。(邦訳『消えた百万人』光人社、1995年)。
バクーは、アイゼンハワー将軍の命令により百万人ものドイツ捕虜が組織的に殺害されたというテーゼを、この著作で展開したのだった。1989年に出版された『その他の減員』は同じ年にドイツにおいても訳出され、『計画された死』という刺激的なタイトルで出版されベストセラーになった。これが事実であれば衝撃的なことであり、またわが国の「専門家」のなかにもバクーを評価するものがすでに出ている。
しかしながら、バクーの『その他の減員』はやはりセンセーションを狙った書であったらしい。ドイツ捕虜の処遇に対する専門書を著しているアーサー・スミスは猛烈な反論をバクーに向けている(Arthur L. Smith Jr.,Der geplante Tod,in D.Bracher(Hrsg.),Deutschland zwischen Krieg und Frieden,Dusseldolf,1991)。
紙幅の都合上詳細は避けるが、スミスによれば、バクーの主張は先行研究や重要史料を無視して、都合のいい史料だけに恣意的に依拠したものであるという。一例をあげれば、ドイツ連邦文書館(バクーはここの史料も利用したとしているのだが・・・・・・)には、アメリカ捕虜収容所におけるドイツ捕虜の待遇に関するさまざまな統計や報告が残されているのだが、バクーの著作ではまったく無視されている。
極めつけは、殺害されたと称する捕虜の死体処理で、百万もの人間が殺されたならば当然死体処理施設がなくてはならないはずである。ところが、スミスにこの質問をぶつけられたバクーはどのように死体を片づけたかはわからない、おそらくライン川沿いの閉鎖された坑道に投げ込まれたのだろうと答えている。
これ以上の解説は必要ないだろう。戦時捕虜の運命は人々の関心を引きやすいテーマではある。それだけに、我々は「新説」には慎重であるべきで、「アウシュヴィッツはなかった」式の嘘には、くれぐれも注意しなければなるまい。 大木毅・鹿内靖共著「鉄十字の軌跡」(国際通信社)p.208-209
このことから「消えた百万人」を参考文献に挙げるのはまずいと思われます。
|
|