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藤原雄一郎のクルーズワールド理論編

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517.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細 返信  引用 
名前:桑原    日付:2009/5/5(火) 8:1
 長くなりましたので,スレッド分けしました。#516 の続きです。

 国内船が危険海域を無事通過して自衛隊の護衛活動は一定の評価を得ているようですが,納税者としてはそれについてももっと深く検証する必要はあると思います。というのも,海上自衛隊が保有している護衛艦の対小型船対応能力には,実は若干の疑問の余地があるからです。

 今回護衛任務にあたっているのは,護衛艦「さざなみ」(同型艦)と護衛艦「さみだれ」(同型艦)で,どちらも汎用駆逐艦に類する艦船です。
 普段は馬鹿にしている(笑)軍事マニアの友人から資料を借りて調べてみたのですが,その主要兵装のほとんどがミサイルや大型艦船や潜水艦などいわゆる 20 世紀型脅威を想定した古典的思想の装備で,不審船やゲリラ船などの 21 世紀型脅威に対抗できると思われる武装は速射砲と呼ばれる砲塔と,ファランクスと呼ばれる高性能機関砲くらいしかありません。これらにしても本来はミサイルや航空機など防空を目的とした装備で,例えば速射砲は 10 海里程度の水上船艇にも有効ですが,船首に 1 門しかないため一般に後方から接近する海賊船は完全に死角になりますし,ファランクスは上空の目標に対しては自律的な AI を装備する高性能機関砲ですが,水上の目標に対しては射程 1 海里にも満たないただの機関砲です。

 同艦の兵装のうち唯一海賊対策に有効なのは,リストの一番最後に記載された「哨戒ヘリコプター × 1」で,これは海賊対策に最も重要な早期警戒に絶対的な威力を発揮するものです。
 艦船本体にもイージス艦と同じ国産の高性能な水平レーダーが搭載されていますが,どれほど高性能なレーダーであっても水平線の外側を探査することはできません(参考)。例えば,護衛艦のマスト高を 40 m と仮定すると探査範囲はせいぜい 14 海里程度で,海賊船の速力ならば後方からインターセプトしたとしても 1 時間以内に接近できる距離です。しかし,ヘリコプターを用いて捜索すると,上空 6,000 フィートに上がっただけでも探査範囲は 95 海里にも広がり,早期に発見されれば事実上接近は不可能になります。
 ただ,ヘリコプターによる哨戒活動にも 1 つだけ盲点があり,それは燃料切れになったら戻って補給を受けなければならないということです。報道映像などから今回護衛艦に搭載されているのはシコルスキー式の国産哨戒ヘリコプター(仕様)と思われますが,一説によればこれの航続時間はせいぜい 4〜5 時間程度で,アデン湾を通過する 20 数時間の間に少なくとも 4〜5 回は着艦しなければなりません。航空機の給油と整備には速くても 30 分はかかるそうなので,その空白の時間に海賊船の接近を許すリスクが発生します。そのため,一般に海上哨戒活動には 2 機のヘリコプターを用意して,交互に運用することになります。しかし,海上自衛隊の護衛艦は単艦につき 1 機のヘリコプターしか運用できず(予備として格納庫は 2 機分用意されていますが),そのために護衛活動には少なくとも 2 隻の護衛艦が必要なわけです。
 要するに,今回の護衛任務の実態は,たった 2 機のヘリコプターを飛ばすためだけに,クルーズ船の 10 倍近い建造費がかかる護衛艦を 2 隻も派遣しているというわけなのです。



518.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:桑原    日付:2009/5/5(火) 7:58
 #517 の続きです。字数制限のため,連続投稿をご容赦下さい。

 #469 の藤原さんのご意見ですと,海賊船との直接的な交戦を前提に海上保安庁の巡視船では力不足とのことでしたが,上記の理由から海賊対策に求められるのは交戦能力よりも索敵能力,とりわけ航空運用能力です。
 海上保安庁の巡視船には継続的な捜索活動や救難活動のために,単艦で 2 機のヘリコプターを運用できるもの(実例)もあり,他にも不審船や小型船に特化した対応能力を鑑みれば,海賊対策には巡視船が適任という意見は,軍事的なコンテキストからも理にかなっているものです。
 ただ,巡視船は軍用ではない故にその兵装は最小限で,レアなケースとして相手が捨て身で攻撃してきた場合や海賊とは無関係な不測の事態が発生した時の対応能力という点では,やはり武力による自衛行動を前提とした護衛艦が絶対的に優勢であることは認めざるを得ず,国民や周辺諸国の理解が得られている限りにおいては,より安心できる選択肢であることに変わりはありませんけど。


519.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:バルクキャリアー    日付:2009/5/5(火) 11:18
桑原さん

MSCメロディが、どの位置で襲撃されそうになったか詳細は公表されていませんし、AISの運用などについて私は素人なのでこれ以上の事は言えないのですが、ステルスの反対の様な客船の対応として私としては以下の様に考えています。

1.海賊行為は今や、ビジネスの範疇に入っており、人質乗組員の解放交渉、身代金相場、受け渡し方法などのスタンダード・ルール的なものがかなり確立している。

2.海賊は、乾舷が高く乗船が困難な船や、自分達が死傷したりする可能性がある船は、ビジネスの対象として避ける。その様な船はリスク対効果で選択しない。

3.私も、海自の体験航海などには良く参加するので、兵装については桑原さんの言われる事もわかりますし、ヘリコプターは非常に有効な手段でしょう。また最近の大型の巡視船は航続距離や兵装からも対海賊任務に向いているかもしれませんね(食糧庫などが長期航海に堪えられる構造なのかは知りませんが)。ただ今回の「事の本質」は重火器の問題はあまり重要でなく、自衛艦が各国から派遣された軍艦と同じNAVYとして協調しつつ、あの水域で展開する事が主眼だと思っています。

4.最近アメリカ籍のコンテナ船が海賊の被害にあった際、アメリカは強硬手段をとって銃撃戦の上、人質を奪還しました。「汚いビジネスにアメリカは応じない」という断固たる姿勢を示して、さすがアメリカと私は感心しました。これが今後海賊にテロ組織が入って来たりして報復合戦になると心配ですが、現在のビジネスとして行われいる海賊行為である限りは、そういう可能性は低いのではと私は思っています。

5.もちろんこの海域を航行する各船は、応戦しない様に指示指導が出ているはずですが、少なくとも欧米のクルーズ船は、武装した自衛の為の人間が乗っている可能性を知らしめた訳で、今後海賊はアメリカ籍船を襲うとか、客船を襲うなどあえて危険な「ビジネス」をする可能性はむしろ低くなるのではないでしょうか。これはテロではないのですから。 

桑原さんの「策敵を強化し、相手に近寄らせない方法をまず考えるべし」は本来そうあるべきでしょうし、今後海賊は、逆に客船に対しては重武装をして危険性が高まる可能性もないではありませんが、現実的にはMSCの採用した手段や、現在の自衛艦の展開を私は評価したいと思います。

http://www.we-blog.jp/wave/seahawks/


520.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/5(火) 13:54
桑原さんらしい精緻な議論の組み立てですが、ここはバルクキャリアさんのように現実的に考える必要があると思います。

まず自衛艦は「張り子の虎」だということです。自動小銃による威嚇射撃以上のことをしたならば、A新聞を始め、未だ平和ボケ思想の残っている勢力が大騒ぎをします。

「自衛艦は決して発砲しない軍艦」であることを要求されています。でも堂々たる効果はあります。このような狂った常識を持っているのは日本国内だけですから、海賊は軍艦であると認識します。

バルクキャリアさんの仰るように、海賊業もビジネスですから、どこの国の軍艦であれ、軍艦と真っ向勝負を挑むとは考えられません。特に軍艦はどこの国の軍艦であれ、遠くから見れば軍艦とわかりますから、十分な抑止力があります。

実戦能力から見れば、未だかつて「敵に対して発砲した経験」が皆無の自衛艦よりは海上保安庁の巡視艇のほうが銃撃戦の経験もあり、戦闘意識も上です。でも海賊にとっては、軍艦よりはよほどやりやすい相手でしょう。

このように何もかも「張り子の虎」である自衛艦も大いに役に立つと私は考えています。

またMSCはセーシェル沖での遭遇です。油断と言い切るのは酷ではないでしょうか。それより武器を携行したつわもの警備員を乗船させていたことを賞賛すべきではないのでしょうか。


522.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:dolphin    日付:2009/5/8(金) 2:2
藤原さま
みえこさま
桑原さま
バルクキャリアーさま

こんにちは(こんばんは)。

暫くの間、某証券会社の合併で客先近くのホテル住まいとなり
自宅プロキシを通しての参照のみの生活でした。

非常に盛り上がっているようで、喜ばしいですね。

みなさまがそれぞれ書かれている方策は、
確かに理に適っており、どれも甲乙付けがたいものだと思います。

ただし、やはり私には非常に矛盾を感じるのです。

いくら軍隊が展開しようが、何しようが、海賊から襲撃を受けた際に
乗客の命が銃弾の危険きされされる可能性が0になるものでは無いのです。
そこに対して0に近づける努力をすることこそが本筋であって、
1.1を1に近づける方策を検討しても仕方無いと思います。

ここについては、航空・船舶・鉄道・自動車などを横断的に包括した
国際的な安全性の統一基準が無いことが一番の問題だと思います。
(船舶以外で0に近い基準を採用しているものもあるので)

また、人命という観点でなければ、私は桑原さまの意見は非常に
興味深いものだと思っております。
日本は、自衛隊も海上保安庁も専守防衛が基本であり、
実戦の機会は非常に少ないことが特徴です。
そういった特殊な環境下にある軍や海上保安庁に、
少しでも実戦下での索敵をさせるという意味で
桑原さまの方策は非常に有効なものであると思います。
(折角大量の燃料や資材を投入している訳ですし)

こんなことを書くと、A新聞社に怒られてしまいますでしょうか...


523.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/8(金) 6:33
dolphinさん

お久しぶりです。戦線復帰嬉しいです。
今世紀はテロとの戦いの時代。すなわち相手は国家ではなくて、無法者です。

国際警察が今こそ必要な時だと思います。その意味で海賊に対処する国際法などの確立も必要かも知れません。そうすれば自衛艦が発砲して良いか悪いかなど荒唐無稽な議論もなくなることでしょう。


524.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:dolphin    日付:2009/5/8(金) 10:10
藤原さま
みえこさま
桑原さま
バルクキャリアーさま

こんにちは(こんばんは)。

今、ニュースで流れましたが、アメリカ軍の補給艦が
海賊から発砲を受けたそうです。

軍隊の艦船に対して発砲を行うようになったと言うことは
もはや単なるビジネスではなくなったということではないでしょうか?

インフルエンザと同様で、相手が軍隊を出動させれば、
それに見合った武装と襲撃を海賊がするようになる可能性が高いと思われます。

いずれにせよ、抜本的な対応が必要そうですね。


525.Re: Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/8(金) 10:48
dolphinさん

そうですか。テロ集団が乗り出すと恐ろしいですね。困った時代になったものです。

521.新型インフルエンザの影響 返信  引用 
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/5(火) 14:27
新型インフルエンザの影響

この一週間はクルーズ会社にとって「てんやわんや」だったと思います。結局メキシカンリビエラとカリブ海クルーズからメキシコの寄港地は全て消えてしまいました。今回の一連の出来事で「クルーズ会社は安全を良く考えている」と私たちに安心感を抱かせたのではないでしょうか。

4月25日に「メキシコで1004人の感染疑い例と、68人の死亡を確認」との発表があり、大騒ぎになりました。そして28日には警戒レベルがフェーズ4に上げられました。それからのクルーズ各社の動きは素早かったです。メキシカンリビエラを例にとれば、29日には各クルーズラインが一斉にメキシコへの寄港を取りやめたり、カポタージュの関係で、メキシコに停泊しても乗客は外に出ないような措置がとられました。そして寄港地をサンディエゴやカトリーナ島などに急遽変更して、とにかく7泊のクルーズは続けたようです。

クルーズは大体、土曜日か日曜日に出港しますので、たとえばRCIのメキシカンリビエラは5月3日の出港から予定を大幅に変えロス出発は変わりませんが、寄港地をサンフランシスコ(カリフォルニア州)ビクトリア(カナダ)シアトル(ワシントン州)に変更しています。さらに6月14日までのメキシカンリビエラ予約の乗客に対しては次のような措置をとっています。

1.取消 : 全額返金します。
2.変更 : ご希望に応じて、他出航日、他船への変更を承ります。変更後のクルーズでは$100-250のオンボードクレジットをお付けします。
3.変更後の日程にてご乗船の方 : $250-600のオンボードクレジットの他、同額の次回クルーズの割引券をお付けします。

各社ともに日程は大幅に変更されています。今月中にメキシコに寄港するクルーズをすでに予約している皆さんは、旅行社にすでに問い合わせていると思います。そしてメキシコに関しては明確な回答が出ていることでしょう。

しかし問題はその他方面へのクルーズが今後、どのような影響を受けるかということです。現時点では誰も予測することが出来ません。ですから次のように考えるべきでしょう。

「多少とも危険性があれば参加したくない。寄港地にはこだわる。」
このような人は当分クルーズを見合わせることです。すでに予約をしていたならば、キャンセル料金の少ないうちに、即キャンセルをすることです。

「寄港地にはこだわらない。新型インフルエンザもあまり気にしない」
このような人は、予約をしたまま様子を見ることです。クルーズについては、今回のメキシコが良い例ですが、ある一定レベルの危険度が増すと、危険地帯に近寄りませんから安全です。今回の事例では寄港地を変更しましたが、クルーズ自体はハリケーンの時のようにキャンセルにはなっていません。最悪「全日程を船で過ごす覚悟」をしておけば良いでしょう。

むしろこれから新型インフルエンザの影響で、航空機もクルーズもガラガラになることも予想されます。家族の反対がなければ、格安クルーズを楽しむことが出来るかもわかりません。でも顰蹙を買うことでしょうが・・・

ともあれクルーズ各社が乗客の安全を何よりも優先していることが判明し、安心しました。

511.MSCメロディ 海賊襲撃の詳細 返信  引用 
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/2(土) 17:2
MSCメロディ 海賊襲撃の詳細

すでにお伝えしたように、MSCメロディが海賊と遭遇し、銃撃戦になったことを伝えました。このほど更に詳細が判明しましたので、お知らせします。

MSCメロディがセイシェルから北に向かって航行中していました。そして丁度デッキではクラッシック・コンサートが行われていました。そのため何百人もの乗客がデッキにいたのです。時間は丁度真夜中です。

船長は南アフリカからの乗客ご婦人二名と話をしていました。話題は皮肉にも海賊に関するものだったとのレポートもあります。船長は「危険海域ソマリアから何百マイルも離れた安全なルートを航行しているから大丈夫です」と話していました。

そのような会話の数分後、何人かの乗客と、船尾に配備されたウオッチマンが暗闇に、何者かが走り回っているのを目撃しました。それは凄いスピードで走るボートと武装した男たちでした。

乗客はこの状況を知らせようと走りだし、ウオッチマンはブリッジと保安要員にすぐさまその状況を伝えました。一部の報道では乗客が、デッキチェアーなどを海賊に向けて投げつけたとも言われていますが真偽のほどは明かではありません。

そして最初の銃撃が始まりましたが、多くの乗客は最初爆竹か何かの音だと思ったそうですが、海賊の襲撃とわかり、自分の部屋へ突進しました。

銃撃が確認されるやただちにMSCメロディは予め定められた、海賊対応に素早く切り替えました。船の灯りは全て消され、全ての乗客はデッキから下の階に移動するように命令を受けました。

そして海賊を追い払う操船を直ちに実行しました。同時に保安要員を実務につかせました。MSCはイスラエルの良く訓練された保安要員をこの20年来、船に配備しているとのことです。彼らはクルーの制服を着用せず、目立たない存在にしているのです。

海賊は船尾からの乗船に失敗したと見るや、猛スピードで船首へと進行しました。MSCもそれをさせまいと、必死に操船したようです。

同時に船長は金庫からピストルを取り出し、保安要員に渡す決心をしました。通常は保安要員には武器を携行させていないのです。このような非常時に初めて保安要員に武器を手渡したのです。

報道では海賊と銃撃戦になったと言われているようですが、事実は威嚇射撃を数発行っただけで海賊に銃口はむけていないとMSCは言っています。そして放水で海賊の排除に努めました。放水は15分で終わったそうです。

海賊は乗船に失敗し、暗闇に消えました。身も凍るような事件は15分で終了しました。その後でブロークンな英語でMSCの位置を確認するための怪しげな無線が入りましたが、船は回答しませんでした。

最初の報道では負傷者はゼロとのことでしたが、アメリカ人が一人、銃弾で破壊されたガラス片で負傷し、クルーも負傷しました。

以上はクルーズクリティックからの記事の紹介ですが、海賊との遭遇が生々しく記述されています。どうしてこのようなニュースが日本では明らかにされないのでしょうか。MSCも安易に保安要員に武器を携行させてはいないことが良くわかりました。



512.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:桑原    日付:2009/5/3(日) 18:41
 しばらく掲示板をさぼっている間に(笑),国内船(ぱしふぃっくびいなす飛鳥 II)の方は何事もなかったようにアデン湾を無事通過したようですが,以前dolphinさんが懸念されていた事態が外国船で起きたのは予想外のことでした。

 ただ,今回のメロディー号の事件は避けようもない事態では決してなく,完全に油断していた状況下では当然起こりうることなのではないかと思います。乗客を実際に乗せているクルーズ船で,海賊との銃撃戦が起こるというのは常識的には考えられない事態で,それを前提とした装備と体制を備えるということはかなり異常な状況です。しかし,実際には海賊の接近をうかつに許してしまうばかりでなく,海賊が襲撃した時点で乗客が自由にデッキに出られる状況になっていたというのは,基本的な安全対策として全くの手落ちであったと言わねばならないでしょう。
 国際海事機関からは 海賊対策のガイドラインが出されていて,情報が若干古く最近のソマリア海賊に関して網羅しきれていませんが,それでも海賊対策には早期警戒と早期対応が何よりも重要という指摘には変わりはありません。つまり,優先的に導入すべきだったのは,銃器や戦闘要員などではなく,より高性能なレーダーや警戒設備(あるいはより思慮深い船長)なはずでした。
 また,若干誇張された情報とは思いますが,本当に乗客が戦闘に参加していたとしたらそちらも憂慮すべき問題だと思います。本人がどれほど腕っ節に自身があろうと,あるいは正規に訓練を受けた軍人であろうとも,指揮系統に組まれていない者が無断で戦闘に参加することは絶対にあってはならないことです。そのような指揮系統外の者(非戦闘員)が戦闘に参加する(あるいは参加を許してしまう)ことは,自身を危険にさらすのみならず,味方(乗組員や他の乗客)や船舶自体を危機的な状況に陥れることになるからです。このような事態において非戦闘員がとるべき最優先の任務は,決して味方の作戦行動を妨害しないで安全区域に速やかに退避し,戦闘区域に非戦闘員が絶対に存在しない状態を確保することです。
 あと,気になったことは,海賊が再襲撃のために船舶の位置を確認しようとしたことです。これは襲撃のためには船舶の正確な位置を知る必要があるからなのですが,裏を返せば襲撃当初は同船の航行位置が海賊側に完全に知れていたということにもなります。船舶の位置を戦術的に知る方法は,例えば受動レーダーや位置通報情報の傍受などがありますが,海賊船の装備から考えて無線交信の傍受が最も確実な方法だと思われます。つまり,完全に油断した状況で,船舶の航行位置を特定できるような情報をうかつに無線で流してしまったのではないかということが疑われるわけです。

 ともかく,今回の事件はソマリアの海賊活動が以前とは大きく変質していて,クルーズ船が明確に襲撃の目標になり得るという教訓は残しましたが,この海域がクルーズにとって著しく危険なのかどうかという点に関しては,油断していれば何事も危険であるという当たり前な結論しか導けない,とても稚拙な事例に過ぎないのではないかと思っています。


513.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/3(日) 19:34
桑原さん

久しぶりです。寂しかったですよ。
今回の事件はソマリア沖とは離れた地域だったのでこのようなことになったのでしょう。

やはり危険水域を軍艦に守られて通過するのが正解かも知れませんね。


514.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:バルクキャリアー    日付:2009/5/3(日) 23:56
今、ソマリアの海賊はAIS(Automatic Identification System)を装備していると言われています。これを持っていると船舶の識別符号、船名、位置、針路、速力、目的地などの情報が一目瞭然で海賊側の手に入ります。このAIS装置の設置はSOLAS条約によって、一定の大きさ以上のすべての外航船舶への搭載が義務付けられているので海賊にとって襲撃対称船舶の位置把握は極めて容易だったことでしょう。

テロ対策に普及が急がれたAISが、海賊の襲撃に役立っているのはなんとも皮肉な現象ですね。10年前日本船のアランドラ・レインボウ号が、インドネシア沖でシージャックに遭遇して以来、同航路に就航する貨物船はインドネシアからシンガポールまで武装した警察を乗船させており、それ以後類似の事件は起こっていない様です。船舶に武装した人が乗っていると海賊に知らしめる事が一番の抑止力になるのではないでしょうか。そういう意味でMSCの対応は、さすが紛争なれした欧米の船だと思います。日本船もこの位の危機対応策をひそかに練っていると信じたいです。

ソマリアの海賊はいまや一大ビジネスになっており、これに対応するには軍艦の護衛と各船の自衛しかないでしょう。

http://www.we-blog.jp/wave/seahawks/


515.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:藤原雄一郎    日付:2009/5/4(月) 7:39
バルクキャリアさん

さすが専門家のコメントは良く理解出来ます。海賊対策にはもっともっと力を入れる時代になりましたね。自衛艦の派遣はまさに時宜を得たものであったと、政府を褒めたいと思います。


516.Re: MSCメロディ 海賊襲撃の詳細
名前:桑原    日付:2009/5/5(火) 7:51
バルクキャリアーさん,

 確かに,ソマリア海賊の中には AIS 等の位置通報システムを使って襲撃対象を特定しているのは事実のようですが,今回のケースで私が着目したのは,それならばなぜあえて船舶の位置を無線で確認しようとしたのかという点です。
 私は専門家ではないので AIS の性能や諸元について詳しくは知りませんが,AIS 識別信号の到達範囲は果たしてソマリア本土から 500 海里以上離れた海域の船舶を捜索するのに有効なものなのでしょうか。常識的に考えれば,レーダー探査距離(数 10 海里)を遥かに超える信号強度は,運用上あまり意味がないと思っています。

 あと,海賊対策に武力を用いることの是非については,例の IMO のガイドライン(44〜45 条)では「厳に慎しむべき」とあり,私もその通りだと思っていましたが,現在のスタンダードは武力で対抗することが主流となっているのでしょうか。確かに,海賊に対してはあえて接近を容認して武力で迎え撃つべきという考えもありますが,しかしそれは少なくとも一般の乗客が乗り合わせているクルーズ船でやるべきことではないと,私は考えています。
 武力による抑止効果も,ケースによっては一定の効果も認められるようですが,それは単独の船舶が独断でやるような性質のものではなく,広い合意の上で慎重に方針づけるべきものだと思います。相手が猛獣の類いならば一度手痛い目にあわせれば以後は従順になりますが,人間の感情や思想はそんなに単純なものではありません。現代国際社会を取り巻く様々な事件を概観しても,武力による犯罪やテロの抑止が失敗した例は多く,ほとんどのケースでは暴力の連鎖を引き起こしています。
 少なくとも,今回の事件でクルーズ船が銃を隠し持っていたことが白日の下にさらされたわけで,海賊側にはより強力な武器と凶悪な手段でクルーズ船を襲撃する動機と口実を与えてしまったことに違いはないでしょう。


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