(49)侯爵家令嬢
「和子! いえ、石崎和子様! 何をなさるの!」
私は和子様に平手で殴られ吹き飛びました。余りに酷い再会です。私は和子様に感謝されこそすれ、殴られる覚えはありません。
「私は、石崎和子などという下賎の者では無いわ! 私は侯爵令嬢、櫻山和子中佐待遇軍属よ。昨日、女子挺身隊士官学校を首席で卒業して陛下から恩賜の時計を下賜されたのよ。下士官風情とは身分が違うのよ。土下座しなさい!」
倒れ伏した私の頭を足で踏み躙りながら、私の義姉の石崎和子様改め侯爵令嬢、櫻山和子様は事情を説明して下さいました。
「私はね、櫻山侯爵家の妾腹の姫として生まれたのよ。でも、私の母は、嫉妬に苦しむ櫻山薫子侯爵夫人に虐められ、幼い私を抱いて家出して自決したわ。その前に、石崎家の東京屋敷の前に私を置いたのよ。そして、私は石崎家の使用人小屋で育ったのよ。石崎家の我侭令嬢の御付の女中として惨めに育ったのよ! 侯爵家の姫様が、田舎の金持ち風情の小娘に虐められながら、育ったのよ!」 「櫻山和子様! 貴女は私の女中でしたが、私はずっと無二の親友・・・ゲボ・・・の積もり・・・・。」 「何が、無二の親友よ! 兄とも慕う健一兄さんは、お前に虐め殺され、親代わりに育てて呉れた権造爺さんは、健一兄さんが虐殺された衝撃で死んでしまったわ! そして、私自身はお前に虐められ馬鹿にされどれほど悔しい思いをして来た事か! そうそう、事情の説明に戻るわ。櫻山家では侯爵閣下の御愛妾の水死体を発見して大騒ぎになったわ。 本当は心優しい櫻山薫子侯爵夫人も心から反省して私の母の遺骸に泣いて詫びたそうよ。姫の遺骸は揚がらなかったけれど、誰もが母と運命を共にしたと思ったのよ。そして、年月が経ち、櫻山侯爵家の関係者が、偶然、錦魁新報(にしきさきがけしんぽう・豊県でシェアを独占する地方新聞。石崎家が経営しています。)のデッチアゲ美談のヨイショ記事を見たのね。」
「錦魁新報のデッチアゲ美談のヨイショ記事」には私も呆れました。私の父上と母上は、和子様を拾い一目見るなり、聡明で美しい和子様を気に入り、すぐさま養女にして自分の実の娘同様に可愛がって育てたというのです。父上が始めて和子様に声を掛けたのは、撫子検査当日の朝の事ですし、母上など和子様に声を掛けた事もありません。
「その記事には、私が拾われた時に来ていた着物も写真で出ていたのよ。櫻山侯爵家の家紋入りでね! それで、櫻山薫子侯爵夫人は、泣きながら私を抱きしめ詫びて呉れたわ。そして、馬鹿馬鹿しい事にお前の父親にも、感謝して頭を下げたのよ。」 「和子様、貴女は石崎家に恩があるとおっしゃって・・・・。」 「ふん、何が恩な物ですか! 私には石崎家には恨みこそあれ、恩など少しも無いわ。これから、一生掛かって、お前を虐めて仕返ししてやるわ! 楽しみにしていらっしゃいな!」
櫻山和子様は、足に込めた力を一層強め、私の顔は土の中に潜り口の中まで土が入って来ました。これから、私はどうなるのでしょうか?
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