つかつかと焔の前に歩み寄った金蝉は何も言わずにバシリとその頬を叩く。 何の抵抗もせず、打たれるがままに横に向けた顔をゆっくりと正面にもどした焔には何の表情もなく、ただ、金蝉を見つめるだけだった。
「 帰る」 怒りに幾分顔を上気させ、わなわなと震える金蝉は、けれど焔が本気なのを悟るとそれ以上話をすることせず、身を翻すと足早やにその場を離れていった。 物静かそうな金蝉の激した一面を見せられた面々は誰も一言も発することも出来なかった。
どのくらいしてか。 打たれた頬が十分に赤くなった焔は金蝉の手の感触を思い出し、いとおしむようにそこに自分の手を沿えて 「オレは考えを変えるつもりはない。もうしばらくここに滞在してもらう」 そういいながら部屋を出ていった。
いささか金蝉と焔のやりとりに呑まれてしまっていた四人は黙りこくり、誰も動けずにいたが、いち早く我に帰った八戒は何か大切なことに気がついたように焔の後を追っていった。
「待って、待ってください。焔さん」(←ほかにどう呼べばいいの by翡翠) 八戒が呼びとめると、振りかえった焔の頬は更に赤くはれ上がっており、金蝉の手形がくっきり浮かび上がっていた。 「貴方の目的がどうあれ、三蔵をなんとかしてくれるなら協力しますよ」 「協力?」 「そう。出発も延ばしますし、金蝉さんへの説得も引きうけましょう」 焔は笑おうとして、頬の痛みに顔を引きつらせた。 「それは痛み入る。だが、本当に協力が欲しいのはあんたでなく、あの無愛想な坊主の方なんだがな」 「説得しますよ。任せてください」 「期待しよう」 痛みが増してきた頬をさすりながら、焔は去っていった。
「って、どういうつもりだ八戒!」 「そうだよ。三蔵を人体実験の材料にするつもりかよ。第一、女になってくださいなんて誰が言うんだよ、あの三蔵に似た綺麗な兄ちゃんに」 追いかけてきて焔と八戒の会話を聞いていた悟空と悟浄が八戒に詰め寄る。 「ああ、それ…。別にどうってことありませんよ、三蔵をどうにかしてくれるなら」 「どうってこと大アリじゃねえか、あんなに怒ってたんだぜ」 「だって、どっちかが女になれば問題ないんでしょ。べつに金蝉さんでなくて 焔さんが女になったっていいじゃないですか。三蔵さえ元に戻してもらえれば、あとは僕等の問題じゃありませんよ」 しれっとしてそんな事を言い出した八戒に悟浄は開いた口が塞がらない。まったく、要点は掴んでいると言うか、人が悪いと言うか、冷静に誠実に対処するように見えながら、何をたくらんでいるのやら。 頼もしいのか、油断ならないのかわからない友人を、ただ見つめるしかなかった。
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